本誌「釣場速報」休載
1956年に創刊以来、69年の長きに亘って関西一円の釣り場の情報を読者に提供し続けてきた「釣場速報」が、この8月末をもって幕を閉じることとなった。時代の変遷とは言え、週末にコンビニに並んだ「つりそく」がなくなると思うと、寂しさが胸を襲う。
関西各地の新しい釣り方を発掘し、それに即した仕掛けやタックルについて、現場に氾濫するさまざまな情報をきちんと整理し、編集して、1つの遊び方、ゲームフィッシングとして提案してきた紙面の役割は大きかった。
釣具メーカーは、それに相応しい釣具を開発し、世界に誇る日本の釣り文化を磨き続けてきた。釣り雑誌も新聞も次々と休刊していく中で、溢れかえるSNSの生データを、誰がどう編集し、新たな釣り文化へと昇華していくのだろうか? 移行するデジタル版のウェブメディア「つりそく」に寄せる読者の期待も格段に大きいのではないかと思う。
そんな訳で、皆さんにご愛読いただいた「タイラバ釣遊記」も、今号で連載終了となる。
思い起こせば、この連載がスタートしたのは2019年4月。この6年間で77回の連載を積み重ねた。
記念すべき第1回目は鳴門の取材だった。鳴門が「関西のタイラバ釣り3大漁場」の1つというだけではなく、今日のタイラバブームの発祥地だったからである。
誤解のないように「今日」と記したのは、タイラバゲームの原型を編み出したのは、大分県佐賀関の漁師、黒岩國松氏であった。
明治末期のことで、漁師が「鯛藻」と呼ぶ海藻(ウミトラノオ)をカブラに結んだ仕掛け(タイラバの原型)を、ビシマ糸で海底に落とし、手繰り上げた。そんな釣法が「テグス商廻船」を通じて瀬戸内海の各地に普及した。
ご存知のように、鳴門海峡は淡路島と四国を結ぶ幅約1.4kmで、最狭部の深さは約90m。最大流速は11ノット(20km/h)に及び、日本国内で最も速く、有名なウズ潮は、大きいもので直径15mに達する。
そんな漁場なので、定置網を仕掛けることは到底不可能だ。だから、鳴門の漁師は急流で釣るさまざまな1本釣りの技術を発展させてきた。
筒に生きエビを詰める「大名釣り」もその1つだし、今日でタイラバ漁を営む本職の漁師も存在する。だから、鳴門は「今日のタイラバブーム発祥の地」なのだ。
このタイラバ釣りを鳴門では「ゴムカブラ釣り」と呼び、やはりビシマ糸を使用しての手釣りであった。ちなみに、地元で「フラフラ釣り」と呼ぶのは、カブラに針を打ち込まずに、遊動仕掛けにした針にエビを付けるもので、タイラバのルーツではない。
筆者に、そんな釣りを教えていただいたのが「釣り船 つるぎ」の西上卓志船長であった。
当時、普及し始めたハイテクのPEラインを使えば、リール、ロッドを用いた「ゴムカブラ釣り」ができるのでは!? と試行錯誤を繰り返し、『SALTWORLD』誌の高橋大河元編集長とともに、各地でも釣果が上がることを検証して、誌面に発表したのである。
このゴムカブラがブラックバス釣りのジグヘッドに似ていたことから、「マダイのラバージギング」を高橋編集長と「タイラバ」と命名し、今のタイラバ釣りが始まったのである。
「タイラバ釣遊記」最終回の取材は 第1回の地、鳴門
そんな訳で、「タイラバ釣遊記」最終回の取材は、鳴門の釣り船 つるぎに足を運ぶことにした。
鳴門海峡はベタ凪で、湿度は高く茹だるような暑さだった。船速は1.2ノット、アフタースポーンから回復したマダイが積極的にタイラバに触ってくる。それも、ボトムから10巻き以内でファーストコンタクトがある。
しかし、ショートバイトで、なかなかフッキングしない。フッキングしても、ファイト中にすぐにバレてしまう。
「このところ、サイズは小ぶりでバラシも多いですよ」と船長は言う。おそらく、活性の高い小ダイが真っ先につついてくるのだろう。
フックサイズを落とすと、さっそくチャリコが上がってきた。ネクタイはシングルコブラカーリーのエビオレンジだった。巻きスピードはやや速め、アタリがあったら巻きスピードを落とすのが、この時のヒットパターンだった。
ふと見ると、西上船長のロッドが大きく曲がっている。小ダイラッシュの中、よいサイズがきたようだ。タモに納まったのは40cmは超える良型、船長の笑顔が眩しい。
大型狙いの大型ワーム・ビッグボスのコーラカラーだ。フックは長めの2本針仕様。ヘッドの上にはウキ止めゴムのLサイズを装着し、ヘッドとワームが離れないようにしている
なぜか大型がよく釣れるビッグワーム。釣り方は通常のタイラバと全く同様である。大型のワームは食うまで時間が掛かるので、アタリがあったら巻く手を緩めて、ロッドティップが引き込まれるのを待つのだ。
筆者もすかさず、ビッグボスのコーラに付けかえ、ドスン! アシストフックはバーブレスシングル仕様。これでバラしたことは、ほとんどない。その10分後にも、再びヒット! 上唇の端を縫い刺していた。
再びビッグボスを着底させると、すかさずヒット。ワームでの入れ食いが始まった。釣り上がったのは50cm超え、この日のレコードサイズであった。

この日最大サイズの50cm超
そして10時5分、西上船長との思わぬ同時ヒットに、2人して相好を崩した。マダイが吐き出したイワシは、ビッグボスよりも少し小さなイワシだった。
ビッグボスの特徴は、右上の別項に挙げているが、大きなワームには大ダイが食ってくるのは、1回の捕食行動で少しでも大きなエサを口にした方がエネルギーの効率がよいからだ。だから、大型ほど大きなエサを捕食する傾向がある。
「バス釣りなどのルアー釣りをやり込んだアングラーほど、細身ネクタイをはじめとするフィネスな釣り方に傾注する。だからビッグワームを薦めても、終日使い切ってくれない。一方で、『タイラバ釣りは初めて』と言う人は、大きなワームでも平気で終日使ってくれるので、大きなマダイを仕留めることができる」と西上船長は言う。入門者には必ずビッグワームを使ってもらうと、船長は語る。新たなタイラバの動きが、ここ鳴門から始まろうとしている。
6年間の長きにわたり、ご愛読いただきありがとうございました。遅々として進まぬ原稿を見守っていただいた編集部の皆様、大変お世話になりました。