「もう何km巻いたか分からない…」開発者を沼にハメた“8kgテンション”

「これまでのラインテンショナーでは、本当に欲しい“強さ”で巻けていない」

アングラーなら誰もが心のどこかで感じていた、このジレンマ。その課題に真正面から向き合い、ひとつの答えを叩きつけたメーカーがある。第一精工だ。最大8kgという異次元のテンションでPEラインをスプールに叩き込む「カチカチテンショナー」。

その常識破りのスペックは、開発担当者を“沼”にハメるほど、過酷な道のりの末に生まれたものだった。

始まりは“寄せ集め”。手書きメーターから始まった挑戦

「最初は、社内の部品をかき集めて作った試作機からでした。本当にゼロからです」。開発担当の大橋拓夢氏は振り返る。

3Dプリンターで試作品を作り、テストを繰り返す日々。テンションローラーの数や配置、メーターの位置…。試作機のメーターが手書きだったという事実が、その手探り感を物語っている。製品化までに1年以上を費やしたこのプロジェクトは、まさにトライ&エラーの連続だった。

最大の“沼”。「滑らせず、削れない」ゴムを求めた半年間

開発で最も困難を極めたのが、ラインが触れるローラーの素材探しだ。

「硬いとラインが滑ってテンションが掛からない。でも柔らかいゴムだと、高負荷ですぐに切れてしまうんです」

この矛盾を解決する「理想のゴム」を求め、試行錯誤は半年にも及んだ。様々な素材をテストしては、失敗する。それはまるで、出口の見えないトンネルを進むような作業だった。

「いったい何kmのラインを巻いたか、もう分かりません(笑)」。

大橋氏のこの一言が、開発の壮絶さを物語る。開発者を沼にハメたこの地道な作業こそが、カチカチテンショナーの心臓部を創り上げたのだ。

“熱”との戦いが生んだ「カーボンワッシャー×14BB」

もうひとつの課題は「熱」。高負荷をかけ続けるとドラグが発熱し、ラインの強度を著しく低下させる。

この問題に対し、開発チームは「カーボンドラグワッシャーを4枚重ねる」という答えにたどり着いた。負荷を分散させ、熱の発生を抑制。さらに計14個ものボールベアリングを内蔵し、どこまでも滑らかな回転を実現した。これはアングラーの信頼を裏切らないという、第一精工の強い意志の表れだ。

なぜ“高テンション”という沼に挑んだのか

そもそも、なぜそこまでしてラインを強く巻く必要があるのか。

マグロやヒラマサ狙いで使われるPE8号などの太糸は、緩く巻くとスプール内で食い込み、致命的なライントラブルの原因となる。

カチカチテンショナーは、ただ強く巻けるだけではない。メーターでテンションを“見える化”し、「始めから終わりまで均一に巻く」ことを可能にした。これが、大物との千載一遇のチャンスをものにするための絶対条件なのだ。

1年以上の歳月と、開発者の執念が生んだこの1台。それは単なる道具ではない。アングラーの夢を現実にするための“儀式”を、最高レベルでサポートするための結晶なのである。

第一精工(DAIICHISEIKO)

1937年創業、大阪市東成区を拠点と、「より良い確かな釣用品」をモットーに釣具を製造、販売するメーカー。「これがないと釣りができないわけではないが、無いと困るもの、あればスマートなもの」、いわゆる便利系アイテムを多数輩出!リールへのラインの巻き取り、ラインの巻き替えが簡単にできる「巻き替えスプール」、エギング用のランディングギャフを安全、コンパクトに持ち運べる「オートキングギャフ」などなど、多くのヒット作を生み出している。

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