取材で全国各地の遊漁船にお伺いすることがある。
タイラバにしても、ジギングにしても、タコ釣りやイカ釣りにしても、また、カワハギ釣りにしてもそうなのだが、いわゆる「ゲームフィッシング」と呼ばれる釣りには、それぞれの船に「名人さん」と呼ばれる常連がいて、竿頭と言うと、決まってその名人さんたちが上位を占める。
タイラバのようにネクタイのカラー、形状、厚さ、巻きスピードなど、その日のヒットパターンとなる変数が多い釣りでは、そこそこ釣り込んだベテランでも何かの拍子にリズムを崩すと、さっぱりマダイのアタリが遠退く、と言うのは「タイラバあるある」だ。
名人たちは決まった船に通い、季節ごとのマダイの行動パターンを熟知し、潮を知り、的確な巻きスピードでタイラバを操る。通い慣れた船であれば、船長との阿吽の呼吸で、その日のヒットパターンを見事に探り出して、結果を出す。
激戦区の明石沖
名人に聞く「メジャーフィールドの攻め方」
特に、明石のように海底の地形が複雑な海峡では、船を流す筋が少しズレるだけで、潮の流れる向きも、潮速も異なる。激戦区明石沖の名人たちは、どのようにしてヒットパターンを探し出しているのだろうか?
■名手・山本 近史 氏

山本 近史 プロフィール
明石海峡でコンスタントにマダイの釣果を叩き出す名手、山本近史氏と釣行する機会に恵まれた。
山本氏のタイラバ歴はわずか3年と短いが、集中的に明石沖に通い詰め、卓越したセンスでその日、その時のヒットパターンを導き出す。
7月下旬、山本氏が公式モニターを務める島虎丸(明石港)に乗船。島虎丸はコンスタントに良型のマダイを釣らせる、タイラバ専門船として名高い。
5時に出船、15分ほど走った明石海峡大橋の、西側の水深30~40mラインからスタートフィッシング。山本氏は右舷ミヨシ、筆者は右舷前から3番目の釣座となった。
島虎丸の島北船長は、船が流れる船速、刻々とかわる水深、マダイやベイトの反応がボトムから、何mまであるのか、そして、ボトムの底質をこまめにアナウンスしてくれる。
岩礁帯では根掛かりも多く、高価なタングステンヘッドをロストしないようにと、船長の細やかな心配りが嬉しい。
6時47分、船中ファーストヒットはミヨシで竿を出していた山本氏だった。竿の曲がり具合を見ると、なかなかの大物。速い潮流の中をゆっくり巻き寄せ、島北友紀夫人のピンク色のタモに納まったのは、堂々65cmの大ダイだった。
さっそく、山本氏にこの日のパターンを、いかに探り当てたのかを伺った。
「ざっくりと言えば、明石海峡大橋の西側と東側でネクタイカラーのパターンが違うと考えています。経験的に、西側はオレンジ系を主軸に組み立てて、東側はレッド系を主軸に組み立てています。
これを基本形として、後は天候を加味しながら、ネクタイのカラーチェンジはできるだけ反対色をセレクトして、当たりカラーを探っていきます。
この方法に行きついたのは、ネクタイカラーで迷わないようにするためで、悩んで迷路に入り込むのが1番ダメなパターンです。
朝イチに首尾よくヒットし、そのカラーにアタリがなくなっても、また終盤に朝イチのカラーでよくアタることもあります。
カラーローテーションをする場合は、自分自身が迷わないようにセレクトする軸を組み立てることが大切です」。
確かに、海峡大橋の西側は岡山三川の影響で濁り潮になることも多い。だから、鮮やかなオレンジカラーから始めると言うのは、納得できる戦略である。
私はと言えば、名手の快挙にペースを乱し、巻きスピードに頭を悩ます。
デッドスローでショートバイトがあったかと思えば、早巻きにもアタってくる。しかし、乗らないのである。
テスト用のプロトのシングルカーリーの形状違いをあれこれ付けかえ、10時40分に待望のヒット。ジャスト55cmのキレイなマダイであった。

プロトのシングルカーリー
11時2分、再び、プロトのシングルカーリーにヒット。今度はかなりの早巻きで中層まで追いかけてのヒットであった。山本氏に巻きスピードを伺ってみる。
「まず、巻きスピードをあれこれ試し、ショートバイトがあれば、そのスピードを中心にほんの少し早くするか、遅くするかをファインチューニングしていきます。そして、マダイが乗れば正解です。
問題はそこからで、多くの人はアタリがあった巻きスピードにこだわり続けます。しかし、明石海峡のように潮の流れる向きも、潮速も複雑な海では、その時間毎の巻きスピードを探っていくことが肝心なんです。
風、潮、天候、波、水質、水深、そして、どのエリアなのか? 明石海峡はこれらの要素が複雑に絡まり合って、その時々でかわっていきます。決して、正解は1つではありません。そんなことを、楽しみながら、答え合わせをしていきます」。
11時40分、山本氏の釣友、小仁鏡智氏がカスタムシートを切り出した自作ネクタイで、60cm超の良型のマダイをゲット。
よく見ると、0.5mmはありそうな分厚いネクタイだ。潮が速くなるにつれ、このネクタイにアタリが集中し始めた。
「明石界隈の潮は、海底の地形の影響で流れが複雑で、同じネクタイ形状で釣れるのは、そのポイントだけと思ってください。しかも、船を流す筋が少し変更するだけで、潮速も変化するということが多々あるんです。
潮が速い時は、分厚いネクタイで潮に負けないように。潮が緩い時は、SASALABOなどの薄めのネクタイや、ダブルカーリーを使って早めの巻きスピードで探ってみるなど、臨機応変な対応が必要です。マダイのアタリを推理し、答えを探っていく楽しさがタイラバなんですよ」と山本氏。
豊富な経験に基づき、明石沖のタイラバ釣りの引き出しの多さを背景に、決して迷路に入り込むことなく、理路整然と答えを導き出す「山本スタイル」がそこにあった。
今後も、明石のタイラバ釣りから目が離せない。