徳島・伊島沖のタイラバ釣行
8月上旬、私が所属する「Lure&FlySUNTORY OPA!」の夏季合宿が、今年も徳島県阿南市の釣船 阿波哲で催された。
クラブ設立から34年間、熱心に活動してきたK先輩を偲び、彼が愛した伊島沖でのタイラバ釣行である。
早朝、黙祷を捧げ、7時半に中林港を出船。海はK先輩の逝去を悼むように、波ひとつない穏やかさ。船は一路、伊島の南側の漁場を目指した。
武知哲生船長とは、彼が開業した時からのお付き合いだ。祖父は戦艦金剛の志願兵の生き残り、父親は元遊漁船の船長と、海に生きる男の三代目。阿波哲の進水式には私も列席した。
何しろ竹を割ったような真っすぐな性格。2歳の頃、父親の船に乗せられ漁へ。沖で目にした黒潮の美しさに魅了され、その時に海の男になる決心をしたと言う。
モットーは「釣れるまで釣る‼」。海が荒れた日にはランニングで体力を付け、常に釣り人にベストサービスを尽くすナイスガイだ。
伊島の南沖合でエンジンの回転が下がった。魚探のスイッチを入れ、海底を覗く。マダイやマハタらしき反応が映し出される。
8時20分、船長の合図でスタートフィッシング。最初に竿を曲げたのは、左舷ミヨシに陣取った上田幸男氏。
上がってきたのは食べ頃サイズのマダイだ。シングルコブラカーリーのオレンジゼブラ金ドットに、シングルフックバーブレスで釣り上げた。
その30分後、今度は右舷大ドモの中立公平氏の竿が絞り込まれた。良型のマハタである。
9時ジャストには加藤直樹氏がオレンジゼブラでレンコダイをキャッチ。9時1分に安東正幸氏、中立公平氏がマハタのダブルヒット。9時24分には中立氏はレンコダイを追加した。
筆者はBIGBOSSにこだわり、9時42分、ボトムから5巻き目でワームを突く微かなアタリ。10巻き目で、じゃれつくような感触から大きくロッドが曲がり、上がってきたのは小ぶりなレンコダイ。
9時45分、立て続けにBIGBOSSに良型のマダイがヒットした。このマダイは晩に催されるK氏を偲ぶ会に提供しよう。
そんなこんなで、船上は入れ食いモードに突入した。何と豊かな漁場なのであろう。
以前、椿泊漁業協同組合の理事に伺った話では「四国最東端の蒲生田岬より北側が瀬戸内海。蒲生田岬から伊島に向かって海底には山脈があり、上げ潮の時には太平洋の深層水が斜面にぶつかり、湧昇流となる。
豊富なミネラルを含んだ深層水は、植物プランクトンを育み、1級の漁場を形成する。さらに潮が速い、波が高い、潮波が立つの三拍子が揃っている。だから、阿南の魚は美味いんだ。アジやサバは絶品だし、伊島のアワビは最高級だ」、と。
椿泊の定置網に入った記録魚を伺って仰天した。イサギは60cmの2.3kg、アオリイカは10kg、ヒラメ17kg、ブリ16・5kg、マダイ18・7kg、イシダイは12・3kg、クエ53kg、カンパチ43kg、ヒラマサは28kg…。こんな魅惑の海域が、大阪の目と鼻の先に存在するのである。
グーグルマップなどで地形をご覧いただけば分かると思うが、伊島の南の海底にスリットがあり、通称は「ラングイ」と呼ばれる漁場だ。氷河時代の淀川の痕跡と言われる。
日本海溝からの湧昇流が、伊島沖で山から運ばれた瀬戸内海の栄養素とまじり合うのである。世界有数の1級漁場であることが、地図からも読み解くことができる。
だから、船長はラインシステムにこだわる。「リーダーは細くても5号以上、先に10~12号のファイティングリーダーを結んだ方がいい」と船長。途轍もない魚が食い付くからだ。
10時、左舷ミヨシの上田氏のロッドが海面に突き刺さった。水深は80m、しかし、怪魚は勢いよくドラグを鳴らし、あっと言う間に100mラインが引き出された。
リールのスプールをサミングで抑えるが、PEは0.8号、決して無理はできない。根に潜られるような場所ではないが、5m巻いては10m引き出され、10m巻いては10m引き出されるという、一進一退が延々と繰り返される。
全員が見守る中、緊張感はクライマックスだ。20分を超える壮絶なファイトに耐え、船長のタモ網に収まったのは、なんと長寸70cm、重さの、私も見たことのないサイズのマハタだった。
皆の歓声に包まれ、当の本人は「腕が痛い」と呻き声。船長は紀伊水道のレコードフィッシュだと言う。
使用したネクタイはシングルコブラカーリーのオレンジゼブラ金ドットだった。
この海域でのタイラバタックルを紹介しておこう。水深150m前後の海域でオニカサゴなどの高級根魚を狙うこともあり、PEライン1号が最低でも300mは巻くことができるリールが必要である。私は、中深海でもピックアップの容易な電動リールを持ち込んだ。
ロッドは、使用するタイラバの重さが40~150gなので、お手持ちのMかMLクラスで十分である。電動リールを使用する場合は、ロッドホルダーを持参すると手返しが早くなる。
船長がSNSに投稿している通り、「潮止まりにはBIGBOSS、潮が流れている時はネクタイが有利」というのが、この海域の傾向である。
この日は、2枚潮に悩まされたが、やはりヒットパターンは同じであった。マハタから、大ダイ、カンパチなど、なぜか大物が口を使うのがBIGBOSSだ。
豊穣な伊島沖の「根魚ラバ」がここに開幕した。今後の展開から、目が離せない。