昔から「キスは八十八夜を過ぎてから」という言い伝えがある。
八十八夜とは、季節を知らせる雑節のひとつ。
立春から数えて88日目の日を指し、毎年5月2日頃にやって来る。
5月に入ると水温も少しは上がり、キスも浅場へとやってくる。
いよいよ、キスシーズンが始まるという訳だ。
キスは日本近海で5種
さて、日本の近海でキス科キス属に含まれる魚は意外に少なく、1属5種しかいない。
最もポピュラーなのが、シロギスだ。
西日本では「キス」とか「キスゴ」と呼ばれていて、大人から子供まで楽しめる釣り物のひとつ。
シロギスは、北海道の北部から本州、四国、九州と琉球列島を除く日本各地に広く生息している。
小さな大物と言われる通り、30cmを超えるものは滅多に釣れない。
ちなみに、現在の日本記録は2004年に長崎県の五島列島で釣れた37.2cmである。
かつては東京湾の脚立釣りが有名で、昔は「夏の風物詩」とも言われたアオギスも日本産キス属の1種だ。
こちらはシロギスより大きくなり、昔は50cmを超えるものもいたそう。
しかし、海の埋め立てや汚染などによって、東京湾のアオギスは早くから姿を消し、四国の吉野川でも消息が途絶えた。
今は九州と山口県などの一部で、細々と命を守っているにすぎない。
シロギスとアオギスのほかに、熱帯域に広く分布する2種のキスが、沖縄にも生息している。
ひとつは死後、体に薄茶色の斑点が出るため「ホシギス」と呼ばれる沖縄を代表するキス。
もう1種は河口の干潟などに多いモトギスだ。
モトギスは色白で目が大きく、スレンダーなのが特徴的。
この魚も生息域は限られており鹿児島県の種子島や沖縄本島、西表島でしか見かけることができない。
長い間、日本産のキスは、この4種だけだと思われてきた。
しかし、2001年に沖縄県の西表島で発見されたのが、アクトキス。これで日本産キス科キス属は5種になった。
型、数ともに狙うなら船釣りがオススメ
さて、キスは船釣りだけでなく、投げ釣りでもよく釣れるが、型も数もと欲張りたい時は船釣りがオススメ。
盛期になると食いが活発になるので、家族連れでも楽しめる釣り物である。
仕かけを投入して底を叩きながら釣り続けていると、ブルンと竿先を振るわせる明確なアタリがでる。
一瞬ドキッとするが、こんな時はたいてい向こうアワセで針に掛かっているから、そのまま竿を立てて静かにリールを巻いて取り込めばよい。
ただ、食いが渋い時は、ブルンのアタリだけで針に乗ってこないことが多い。
こんな時は、竿先を送り込んで十分に食い込ませてから、上げてやるとよい。
特に警戒心が強い大型ほど、送り込んでやること大切だ。
アタリがでても、エサだけ取られたり、端っこを食いちぎられていることがある。
そんな時は、エサを針一杯に刺し、できるだけ垂らしを短くしておくと、食い込みがよくなる。
オモリが底へ着いたら、すぐに糸フケを取り、道糸を張る。
そして、わずかにオモリを持ち上げるような体勢で竿を構える。
船の揺れに合わせて、トントンとオモリが底を叩くような状態でアタリを待つ。
この状態を持続させていると、エサが底近くでフワフワと漂い、キスの目に付きやすくなるからだ。
それと、仕かけが底を引きずる状態で流すと、「テカミ」と呼ばれるイトヒキハゼやガッチョ(ネズミゴチ)が食ってくる。
なので、少し底を切って流した方がよい。
美味なキス料理を紹介
大型のキスが釣れた時、3枚に下ろしてお造りにするのもよい。
しかし、淡泊なキスの身にアクセントを付けるため、昆布締めにすると、もっと旨みが増して味が深くなる。
身を3枚に下ろしたら、腹骨をすき取り、皮を引いてから昆布で包んで冷蔵庫に。
身が薄く、すぐに漬かるから、翌日の夕ご飯の時に十分食べられる。
酒好きの人にオススメの1品。3枚に下ろして、腹骨をスキ取った身を、お酒で洗って2、3時間陰干しにする。
これを焦がさないよう火で炙って、よく冷えた吟醸酒をチビチビやりながらキスを齧る。
佳肴とは、正にこの肴のことだな、と1人納得。
お造りにした時に、残った中骨を骨せんべいに、こちらもよい酒の肴になる。
中骨に小麦粉か、天ぷら粉を薄くまぶし、弱火にして170度ぐらいの油で4分ほど揚げる。
仕上げは強火にして、1分ほどカリッと揚げたらでき上がり。塩を振っていただく。